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集客と文化―伊豆の小さな温泉地で

 【2008-12-09:川上湛永】初冬の日差しが、やわらかい。伊豆半島の付け根に近い、畑毛温泉。そのD旅館を訪ねた。バス通りに面した旅館は、鉄筋コンクリート2階建て。背後に稲刈りの終わった田が、広がっている。遠くに、富士山の裾野につらなる山並みがかすむ。

 「一定のお客さんは、見えるが、それ以上増えない。どうしたらいいでしょう」とその旅館の女性支配人から、数か月前、相談を受けた。観光専門家ではない、一ジャーナリストとしてなら何か言えるかもしれない、と約束した。それで、現地視察ということになった。
 記者駆け出しのころ、2年間熱海支局に勤務した。支局に温泉が引いてあった。独身には、もったいないような環境だった。温泉記者と自称して、守備範囲の熱海,伊東温泉以外にも、足をのばして伊豆中を取材に歩いた。

 伊豆は、半島全体が温泉地で、歴史、地形、景観の異なる温泉地を形成しているのが特徴だ。だから、それぞれ客の方で、ひいきの温泉を決めている。例えば、修善寺は、1本の川沿いに和風旅館が立ち並び、風情がある。熱川温泉は、海べりの傾斜地に旅館がへばりついている。相模湾の景色と温泉を売り物にする。老舗の熱海は、何でもありだが、ひいきにするほどのこだわり派の温泉ではない。それが、長期低落の要因でもある。何でもあるが、何にもない。

 畑毛温泉は、熱海から車で飛ばすと、40分ほどだ。熱海の奥座敷というひともいる。旅館も10軒ほどで、取材対象にならないから、訪ねたことがなかった。田舎臭い温泉のような気がしていた。

 D旅館は、鉄筋2階建て、50室という旅館だった。和風テイストだが、ロビーのしつらえなどは、洋風でもある。温泉は、全体にぬるめ。ゆっくり、じんわりとあたたまる。広い露天ふろもぬるめ。熱めの温泉を好むひとには、物足りないかもしれないが、これはこれとしてぬるめ主義を貫いている。部屋から履いてきたスリッパを、脱衣籠のわきの専用スリッパ入れに収納する。自分のスリッパと他人が履いてきたそれが、入口でごちゃごちゃになるのを避けた工夫。清潔と評判がいいらしい。

 ぬるい温泉が気に入って、年老いた母親をぜひ呼んで、広い男子風呂の温泉に入れてやりたい、と熱心に頼みこむ東京の客がいたという。願いをかなえてやりたかったが、混浴禁止という県条例違反になるので、やむなく断ったという。

落語会が売り物

 数か月ごとに、東京から落語家を呼んで、落語会を開いている。今、落語ブームだが、以前からの催しで、売り物のひとつにしている。ゆっくり、温泉に入って、落語を楽しむ。これを目当てに予約する客もいる。ひとつの文化だ。シャンソンなどもいいかも知れない。洋風のロビーがステージになる。

 3年前、大分県の湯布院温泉に美術館を開業したというひとに会った。文化事業なら当たると自信たっぷりだった。温泉地には文化はアクセントとして重要な位置を占めるようになった。箱根は、美術館、ミュージアムの宝庫でもある。

 「ただ、温泉に入るのでなく、文化的な催しでもお客さんが呼べるようにしたい」と支配人は意を決したようだった。地産地消ではないが、地元でとれる果物なども、どんどん出したらいい。伊豆は海に突き出ているから魚が売り物だが、果物は女性に受ける。そんなことを取りとめなく、食事を取りながら話した。会席料理は、板前が京都の本場で修業しただけあって、よかった。

 D旅館の前にあった旅館が、今年の春に廃業した。ライバルでもあったけど、さびしいですね、と支配人。温泉地は一軒だけのひとり勝ちでは、必ずさびれる。団体戦なのだ。畑毛温泉は、伊豆でも一番小さな温泉だが、10軒たらずの旅館が連合して立ち向かわないと、半島の向こう側の熱海、伊東や下田にかなわない。

 帰りがけ、旅館の前のバス停にひと気がなかった。春から、バス会社のリストラで、定期運行が休止になったという。これも小さな温泉に課せられたハンディかも知れない。

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