REJAニュースTopへ

日本不動産ジャーナリスト会議(REJA)が提供するニュースサイト

<< マンションの被災状況を確かめたのはやはり管理会社だった!:管理組合の当事者能力の弱さはこれから直視すべき急務となる〜現場の最初の目撃者はマンションの管理組合だけしかいない〜 | 日本不動産ジャーナリスト会議 | 中国内陸部も、開発エネルギーはすさまじく、熱気にあふれていた―日本不動産学会の中国・安徽省視察 >>

同じマンションの1階が震度6でも中層階は震度6強、上層階は震度7!:矢野克巳氏が問いかける災害常識の再点検〜マンションに住むための災害認識は今のままでいいのか〜

【2011-04-25:村井忠夫】シミュレーション・マグニチュード7.3・・・・・・・・

 5年前に出た一冊の本がある。矢野克巳著「マンションは地震に弱い」。日経BP社発行で2000円でもお釣りがくる程度の本だから高いとはいえない。200ページ足らずのこの本を読んだとき、それまで知っているつもりだった災害常識にいくつもの盲点があることに気づかされて、いささか愕然となった。

 そこで、マンション管理組合セミナーや講演会、講習会の都度、さして荷物にもならないこの本をいつも用意して、話の結びでマンション管理の具体的な対応を考える人にとっての必読書であることを何度も話してきた。

 しかし、実は、残念ながらこの本を読んで感想を述べる人にたったの一度も出会ったことがない。私自身も、その後、あまりこの本のことを話す機会が少なくなってきた。・・・・

 そんな中での東日本大震災。思い出さないわけにいかなくなってページを開いたこの本の冒頭には、次のようなシミュレーションが出てくる。

 『午前5時・関東地方で非常に強い地震が発生。震源は東京湾北部。地震の強さはマグニチュード7.3。震度は東京/江東区、荒川区、足立区で6強。品川区、目黒区、大田区でも6弱。多摩地区や千葉県、埼玉県、神奈川県の市町村でも震度5強から5弱が観測された・・・・。

 東日本大震災は、2011年3月11日14時46分。マグニチュード9.0、震度最大は宮城県栗原市で震度7、東京は震度5強。率直にいって「シミュレーション」と断られると可能性を縮小していささか現実感を割引した気分を持つものだが、現実に起こった事態はこの短い記述に恐ろしいまでのリアリテイをいやというほど浮かび上がらせる。

 このシミュレーションは、300世帯が住む地上30階建てマンションの1階、15階、30階の3家族を想定しながら「マンションの被害の特徴」という見出しで具体的な事態の説明を展開していく。そこに出てくるものは、超高層マンションだけにとどまらない。書かれていることは”超高層ではない”圧倒的多数のマンションでも決して例外ではないことを感じさせる。

 この部分の見出しは本全体の要約的なダイジェストにもなっているので、見出しをそのまま引用して紹介する。
[1]上層階ほど揺れは大きい
1階と上層階で震度は1違う/上層階ほど家具が散乱する/揺れの大きさと倒壊の危険性とは別/上層階ほど重傷を負いやすい
★少しあとに「気象庁による計測震度階で大まかに表現すると、1階(地上)での揺れをAとすると、中層階の震度はA+0.5相当に、上層階ではA+1に、それぞれ増幅されます。」という記述が出てくる。
[2]上層階ほど脱出が難しい
エレベーターの閉じ込め事故は避けられない/非常階段にも事故が発生する
[3]共用部分が避難を困難にする
快適さを提供する設備が非常時には障壁に/周辺火災は1日では鎮火できない/エントランスホールは弱者で一杯に/平日の昼なら避難はさらに困難に/マンション住人は避難場所には入れない可能性も/避難場所はストレスを極大化する
[4]ライフラインの復旧が遅れる
管理会社も被災者になる/戸数が多いほど被害確率も高まる/避難時には必ずブレーカーを落とすように
[5]共用部分の復旧は住民の合意と負担が大前提
修繕積立金会計が復旧のカギを握る/かさむ被災後の出費/復旧と建て替え/平常時の対策

5年前に構造設計の第一人者が発信した情報の重さをもっと注目した方がいい

 この本を読む前に、矢野克巳氏とはマンション管理支援協会の「超高層マンションの問題点」というフォーラムでご一緒する機会があった。そのとき、矢野さんから、われわれが「震度」○○でわかったような気でいても、実際上「震度」はあくまでも建物全体をさすいい方であって、現実にはその人がどの高さの住戸にいたかでまったく感じ方が違うこと、例えば15階建てのマンションで1階が震度6弱なら2階から11階は震度6強、12階から上は震度7になると考えなければ実情認識が不十分になることを聞いて、なるほどと痛感した。11階の住戸に住む地震の実感とニュースで聞く震度がいつもずれていることが納得できたし、災害の実情把握には大まかな震度や個人レベルの地震経験だけでは語れない盲点があることをあらためて感じた。

 矢野さんが構造設計界の第一人者で日建設計の東京本社代表だったとか数々の賞の受賞者だったという実績のほどは、もう知る人にはよく知られている。前記のフォーラムのあと、矢野さんには、日経BPのメルマガ[マンション管理新時代]でもゲストとしてお話をつぶさに聞く機会があった。

 それほど忘れがたい本だったが、この本のことは書評や新刊紹介にはほとんど取り上げられなかったような気がする。ただし、「サンデー毎日」だけは2006年7月30日号で「大規模高層マンションは震度4でダメになる」というタイトルでこの本のことを紹介した。いかにも週刊誌ふうのどぎついタイトルだか、あえてこの本の正当な理解のために付け加えれば、この本は別に超高層マンションだけが危ないなどとは少しも述べていない。「マンションには構造としての耐震性はあるが、住宅としての耐震性は低い」という視点が前提となった現実的な警告である。

 そう思ったから、この本のことを話題にしてきた。改めて紹介するが、この本は、今でも買える。
【書名】マンションは地震に弱い
【著者】矢野克巳
【監修】NPO法人 耐震総合安全機構 耐震総合安全性指針作成委員会
【編集】日経アーキテクチュア
【発行】2006年7月10日 日経BP社
【体裁/価格】199ページ/1,800円+消費税

 すでにマンションストックは600万戸に呼ぶ。「マンションは地震に弱い」という本の後に、「マンションは地震に強い」という本が出てほしい。せめて「マンションが地震に強くなるために」という発想の情報発信が切望される。

 今までのマンション管理常識とは違う視点が切望される時代が始まったのは確かだろう。

この記事に対するコメント

コメントする









この記事のトラックバックURL
http://news.realestate-jp.com/trackback/1406947
この記事に対するトラックバック




お問い合わせメールフォーム